TensorFlowとKerasを活用したAI創薬研究支援の概要図

【AI創薬】TensorFlow/Keras完全ガイド|深層学習のもう一つの標準

1. はじめに:なぜ創薬研究者がTensorFlow/Kerasを学ぶのか

新しい医薬品を1つ世に送り出すには、平均で約10年の歳月と25億ドル(約3,700億円)もの費用がかかると言われています。標的探索、候補化合物探索、物性予測、ADMET予測といった一部の工程を効率化する手段として、いま機械学習・深層学習(ディープラーニング)への期待が高まっています。

その深層学習を支える土台として広く使われてきたのが、Googleに由来する「TensorFlow(テンソルフロー)」と、その上で動く高レベルAPI「Keras(ケラス)」です。先に1点おさえておきたいのは、TensorFlow/Kerasは創薬専用のツールではなく、ニューラルネットワークやGNN、生成モデルなどを実装するための汎用的な深層学習フレームワーク(開発基盤)だということです。つまり「AI創薬ツール」というより「AI創薬で利用される計算・解析の支援基盤」と捉えるのが正確です。本記事では、TensorFlow/Kerasの基礎から、Keras公式の創薬実装例、DeepChemなどの関連ライブラリまで、もう一つの標準として知っておきたい基盤技術をstep-by-stepで解説します。

2. TensorFlow/Kerasとは?深層学習のもう一つの標準

TensorFlowは、Googleが開発したオープンソースの機械学習プラットフォームです。テンソル(多次元配列)の演算や自動微分(学習に必要な微分の自動計算)といった低レベルな計算を担い、CPU・GPU・TPU上で大規模な学習を実行できます。一方のKerasは、その上で動く高レベルなニューラルネットワークAPIで、「人間のための深層学習」を掲げ、少ない記述量でモデルを組み立てられる手軽さが特徴です。

ここで重要な最新事情があります。Kerasはかつてはほぼtf.kerasとしてTensorFlowと一体で語られてきましたが、2023年に公開されたKeras 3では、TensorFlowに加えてJAX・PyTorchを切り替えて使えるマルチバックエンド構成へと刷新されました(さらに推論用としてOpenVINOにも対応します)。同じKerasのコードを複数の基盤で動かせるようになった点は、創薬研究者がツールを選ぶうえでも見逃せない変化です。

3. なぜ創薬にTensorFlow/Kerasが使われるのか

創薬分野でTensorFlow/Kerasが選ばれる理由は、主に次の3点に整理できます。第一に、TensorBoardによる学習過程の可視化や、CUDA対応GPUによる高速計算など、開発・デバッグを支える周辺ツールが充実していること。第二に、Kerasの宣言的な記述により、全結合層・畳み込み層・グラフ処理など多様なアーキテクチャを短いコードで試せること。

第三に、RDKit(化学情報を扱うライブラリ)やDeepChemなど、化学情報学のエコシステムとの連携実績が豊富なことです。具体的な応用領域は、分子の物性予測、毒性・ADMET予測、新規分子を生み出すデ・ノボ設計、薬物-標的相互作用の予測など多岐にわたります。なお、もう一つの主要基盤であるPyTorchについては別記事で解説しており、両者は「どちらが正解」ではなく目的やチームの事情で使い分けるものと捉えるのが現実的です。

4. Keras公式が示す創薬実装例

Kerasの公式ドキュメントには、創薬・化学に直結するサンプルコードが用意されており、ブラウザ上のGoogle Colabでそのまま試せます。代表的な2つを押さえておきましょう。

4.1 MPNNによる分子物性予測(血液脳関門の透過性)

MPNN(Message Passing Neural Network=メッセージ伝達型ニューラルネットワーク)は、分子を「原子=ノード、結合=エッジ」のグラフとして扱い、隣接する原子の情報を伝え合いながら分子全体の特徴を学習する手法です。Keras公式例では、このMPNNを使ってBBBP(血液脳関門の透過性:薬が脳に届くかを左右する重要な性質)を予測します。SMILES文字列(分子を文字列で表す記法)からグラフを構築し、メッセージ伝達 → リードアウト(分子単位への集約) → 2層の分類層、という流れで予測を行います。

4.2 VAEによる分子生成(デノボ創薬)

もう一つの公式例は、VAE(Variational Autoencoder=変分オートエンコーダ)による分子生成です。分子を連続的な「潜在空間」のベクトルに変換し、その空間を探索することで新しい構造を生み出します。この例はエンコーダー・デコーダー・物性予測器の3要素で構成され、勾配ベースの最適化によってlogP(脂溶性)などの目的物性に向けて分子を最適化できる点が特徴です。下記は学習の最小フローのイメージです。

import tensorflow as tf

# 1. データ準備:分子のSMILESから隣接行列・特徴行列を作成
#    (Keras公式例では ZINC データセットを利用)

# 2. モデル構築:エンコーダ→潜在空間→デコーダ+物性予測器
vae = MoleculeVAE(encoder, decoder)

# 3. コンパイルと学習
vae.compile(optimizer=tf.keras.optimizers.Adam(learning_rate=5e-4))
vae.fit(train_dataset, epochs=10)

# 4. 潜在空間をサンプリングして新規分子を生成

※上記は流れを示すための簡略イメージです。完全な実行コードはKeras公式のサンプルおよびColabノートブックで公開されています。

5. TensorFlow/Kerasを支える創薬エコシステム

TensorFlow/Kerasを中心に、創薬・化学に特化したライブラリ群が育っています。ここでは代表的な3つを紹介します。

5.1 DeepChem:創薬を民主化するツールチェーン

DeepChemは「創薬における深層学習の民主化」を掲げるオープンソースライブラリです。分子特性予測や毒性予測を簡単に実装でき、ECFP(分子の特徴を数値化する指紋情報)や、MoleculeNetという標準データセット群とも統合されています。ここで誤解しやすい点ですが、DeepChemはTensorFlow専用ではなく、TensorFlow・PyTorch・JAXに対応しています。ただしこれはKeras 3のように「同じコードをそのままバックエンド切替で動かす」という意味ではなく、モデルや機能ごとに必要な依存関係(TensorFlow系かPyTorch系か)が異なり、使いたいものに応じて個別に導入する設計です。初心者でもチュートリアルを通じてAI創薬に取り組める点が大きな強みです。

import deepchem as dc

# 毒性データセット Tox21 を ECFP 指紋で読み込み
tasks, datasets, transformers = dc.molnet.load_tox21(
    featurizer="ECFP", splitter="scaffold")
train, valid, test = datasets

# マルチタスク分類モデルの構築・学習
model = dc.models.MultitaskClassifier(
    n_tasks=len(tasks), n_features=1024, layer_sizes=[1000])
model.fit(train, nb_epoch=10)
5.2 DeepMol:データ処理から解釈までを一貫支援

DeepMolは、ポルトガル・ミーニョ大学のBioSystemsグループが開発する、創薬・化学情報学向けの機械学習フレームワークです。TensorFlow・Keras・Scikit-learn・DeepChemと連携し、RDKitを使ったデータ標準化、分子フィンガープリント計算、特徴量選択、PCAやt-SNEによる探索、SHAP値によるモデル解釈までを一貫してサポートします。前処理から解釈性までを通しで扱いたい場面で役立ちます。

5.3 Deep-Drug-Coder:条件付き生成でデノボ設計

Deep-Drug-Coder(DDC)は、AstraZeneca所属・関係の研究者らによる研究から生まれたtensorflow.keras製の分子生成モデルで、成果はNature Machine Intelligence誌(2020年)に発表されています。分子記述子やQSAR(化学構造と活性の関係)に基づく活性ラベルをLSTMの初期状態に組み込む条件付きRNN(cRNN)により、目的の物性を狙って分子を生成します。候補分子を反復的に最適化するのではなく、記述子から直接学習して逆QSAR問題に取り組む点が特徴です。

6. 構造予測と最新動向:AlphaFold 3

創薬におけるAIの存在感を一気に高めたのが、Google DeepMindとIsomorphic Labsが2024年5月に公開したAlphaFold 3です。タンパク質だけでなくDNA・RNA・リガンド(薬の候補となる小分子)まで含めた複合体の立体構造と相互作用を予測でき、構造ベース創薬設計(SBDD)への応用が期待されています。モデルのコードと重みは2024年11月に学術利用向けに公開されました。

ただし、AlphaFold系モデルの主目的はあくまで構造の予測であり、結合親和性や薬効そのものを保証するものではありません。構造予測の結果は、ドッキングや分子動力学シミュレーション、そして実験的検証と組み合わせて解釈する必要があります。

7. 学習リソースとおすすめデータセット

これからTensorFlow/Kerasで創薬AIを学ぶ方には、次の順序がおすすめです。まずTensorFlow/Keras公式チュートリアル(日本語版あり)で基礎を固め、RDKitで分子構造の扱いに慣れ、Keras公式のMPNN・VAE例で創薬実装の感覚をつかみ、最後にDeepChemやDeepMolのチュートリアルで応用に進む、という流れです。ケモインフォマティクスの実践例としては、Pat Walters氏のPractical Cheminformatics Tutorials(Colabで実行可能なJupyterノートブック集)も定番です。

実践でよく使われるデータセットも押さえておきましょう。量子化学特性を持つ約13万分子のQM9、毒性関連のアッセイ(生物学的試験)結果をまとめたTox21、FDA承認薬と臨床試験で毒性により承認に至らなかった薬を比較するClinTox、これら複数のタスクを束ねたMoleculeNetなどが代表的です。Tox21とClinToxはどちらも毒性に関わりますが、前者はアッセイの活性データ、後者は臨床的な成否の比較データという違いがあります。

8. まとめ:TensorFlow/KerasはAI創薬の信頼できる土台

TensorFlow/Kerasは、分子物性予測・毒性予測・分子生成などを短いコードで実装できる深層学習基盤であり、DeepChem・DeepMol・Deep-Drug-Coderといった周辺ライブラリや、Keras公式のMPNN・VAE実装例と組み合わせることで、創薬AI研究を幅広く支えます。Keras 3でマルチバックエンドに対応したことで、PyTorchと並ぶ「もう一つの標準」としての使い勝手はさらに高まっています。

一方で忘れてはならないのは、AIによる予測は候補化合物の優先順位付けや仮説生成を支援するものであり、実験的検証や専門家の判断、規制対応を置き換えるものではないという点です。予測精度は学習データ・評価方法・適用範囲に強く依存します。また、各ライブラリはオープンソースですが、商用利用や再配布、モデルの重み・データセットの扱いはライセンスごとに条件が異なるため、特に企業での利用では事前確認が欠かせません。こうした前提を理解したうえで、まずは公式チュートリアルから第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

参考リンク

  • TensorFlow 公式サイト:https://www.tensorflow.org/
  • Keras 公式サイト:https://keras.io/
  • Keras 3 紹介(マルチバックエンド):https://keras.io/keras_3/
  • Keras 例:MPNNによる分子物性予測:https://keras.io/examples/graph/mpnn-molecular-graphs/
  • Keras 例:VAEによる分子生成:https://keras.io/examples/generative/molecule_generation/
  • DeepChem 公式サイト:https://deepchem.io/
  • DeepMol(GitHub):https://github.com/BioSystemsUM/DeepMol
  • Deep-Drug-Coder(GitHub):https://github.com/pcko1/Deep-Drug-Coder
  • Practical Cheminformatics Tutorials:https://github.com/PatWalters/practical_cheminformatics_tutorials
  • AlphaFold(Google DeepMind):https://deepmind.google/science/alphafold/
免責事項

本記事は、TensorFlow/KerasおよびAI創薬に関する情報提供を目的として作成されたものです。記事の内容は、公開時点で入手可能な文献・情報に基づいていますが、技術の進歩や新たな知見により、情報が変更される場合があります。記事に記載されたソフトウェアの使用結果や、それに基づく研究成果について、筆者および本ブログは一切の責任を負わないものとします。実際の創薬研究や臨床応用にあたっては、必ず最新の文献・公式ドキュメントを確認し、専門家の助言を得てください。

本記事は生成AIを活用して作成しています。内容については十分に精査しておりますが、誤りが含まれる可能性があります。お気づきの点がございましたら、コメントにてご指摘いただけますと幸いです。なお、本記事の内容に基づいて生じたいかなる損害についても、当サイトは責任を負いかねます。

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