この記事は、薬学部で長年教えた元大学教授の視点で、国試の問題が解けない理由を読者ごとに異なる階層構造(大学薬学・高校・中学)で捉え直すアプローチです。これまでの解説では届きにくい「自分の現在地を見極めて必要な階層から学び直す」ための実践的ガイドです。
🔍 問題(第111回薬剤師国家試験 問174より)
区分:一般問題(薬学理論問題)/科目:薬剤(薬物動態学)
📚 出典:厚生労働省「第111回薬剤師国家試験問題及び解答について」(令和8年2月21日、2月22日実施)
- 問題PDF:1日目③ 一般問題(薬学理論問題)【薬理・薬剤・病態・薬物治療】
- 正答PDF:第111回薬剤師国家試験 試験問題正答(令和8年3月25日)
- 正誤表PDF:第111回薬剤師国家試験 正誤表等
確認した範囲では、問174に関する訂正・採点上の考慮は確認されていません。公開前には、厚生労働省の正誤表および採点上考慮された問題の資料を最終確認してください。
※本記事は厚生労働省・試験委員・薬剤師国家試験の出題機関とは一切無関係の個人による解説です。
問174 下表は、ある薬物 400 mg を患者に急速静脈内投与し、その4時間後に定速静脈内投与を開始したときの血漿中薬物濃度を示す。このときの定速静脈内投与速度(mg/h)として最も近い値はどれか。1つ選べ。ただし、本薬物の体内動態は、線形1-コンパートメントモデルに従い、ln 2 = 0.693 とする。
急速静脈内投与後の時間(h) 1 2 4 ↑定速静注開始 6 10 血漿中薬物濃度(μg/mL) 14.2 10.0 5.0 5.0 5.0
- 15
- 20
- 25
- 30
- 35
※問題文・表は厚生労働省公開資料から引用。詳細出典は本節冒頭参照。
✅ 正解と一般的な解説
正解:5(35 mg/h)
定速静注開始(t = 4 h)以降、血漿中濃度が 5.0 μg/mL で一定に保たれている点が決定的です。これは「定常状態(steady state)」を意味し、単位時間あたりの投与量 = 単位時間あたりの消失量が成立しています。
標準的なステップ計算
| ステップ | 求める量 | 公式 | 値 |
|---|---|---|---|
| ① | 半減期 t1/2 | t=2 h で C=10.0、t=4 h で C=5.0 → 2時間で半減 | 2 h |
| ② | 消失速度定数 k | ln 2 / t1/2 = 0.693 / 2 | 0.3465 h⁻¹ |
| ③ | 初濃度 C0 | 5.0 × 2² (t=4 h の濃度から4時間分逆算 = 2半減期分) | 20 μg/mL |
| ④ | 分布容積 V | Dose / C0 = 400 mg / 20 mg/L | 20 L |
| ⑤ | クリアランス CL | k × V = 0.3465 × 20 | 6.93 L/h |
| ⑥ | 定速静注速度 k0 | Css × CL = 5.0 × 6.93 | 34.65 mg/h ≈ 35 mg/h |
📝 単位の注意:μg/mL = mg/L です(分子・分母とも1000倍)。20 μg/mL = 20 mg/L として計算します。この変換を忘れると桁が1000倍ズレます。
この結論「正解:5」は、厚生労働省公表の試験問題正答(第111回 問174 薬剤)と一致します。なお、確認した範囲では、問174に関する訂正・採点上の考慮は確認されていません(公開前には厚生労働省の正誤表・採点上考慮された問題の資料を最終確認してください)。
もっとシンプルな別解 — 「入と出のつりあい」だけで解く
定常状態の本質は 「入る速度 = 出る速度」です。一次反応では消失速度 = k × A(A は体内薬物量)なので、
A(t=4 h の体内薬物量)= 400 mg × (1/2)^(4/2) = 400 × 1/4 = 100 mg
k0 = k × A = 0.3465 × 100 = 34.65 mg/h ≈ 35 mg/h
V や CL を経由しなくても、半減期と「4時間で1/4に減った」事実だけで答えが出ます。この別解が腑に落ちると、本問の本質が「公式の代入」ではなく「入と出のつりあい」であることが見えてきます。
ここまでが標準的な解法です。
💡 しかし、これで終わると次に同じパターンの問題を落とすかもしれません
「公式に当てはめる手順」だけを覚えて止まってしまうと、応用が効かないことがあります。
たとえば次のような変形で、手が止まる可能性があります:
- 「急速静注8時間後の濃度を、その時点から水平に維持したい場合、k0 はいくつ?」
- 「定速静注速度が k0 = 17.3 mg/h のとき、十分時間が経った後の定常状態濃度は?」
- 「定速静注を続けたまま、6時間後に維持速度を半分に減らしたら濃度はどう動く?」
- 「もし急速静注の3時間後に同じ k0 = 35 mg/h で定速静注を開始したら、濃度は上がる?下がる?水平?」
公式 Css = k0 / CL を式の形だけで覚えていても、「なぜそうなるか」が腑に落ちていないと、設問の言い回しが変わった瞬間に詰まります。
🔍 まずは自己診断:あなたの躓きの階層は?
薬学生の理解レベルは多様です。自分がどの階層で躓いているかを見極めることが学び直しの第一歩。以下の3つの質問に答えてみてください。
📋 自己診断クイズ(30秒)
Q1. 一次反応の半減期 t1/2 と速度定数 k の関係(t1/2 = ln 2 / k)を、式の意味として説明できますか?
(例:「速度定数 k が大きいほど半減期は短い、なぜなら…」と続けられる)
→ NO なら【中層:高校化学の反応速度・高校数学Ⅱの指数対数を土台に、大学薬学の一次消失モデルを確認】が出発点
Q2. 「定常状態」とは何か、水の入った浴槽の例えで説明できますか?
(例:「蛇口から入る水量と排水口から出る水量が等しいとき、水位は変わらない」)
→ NO なら【基礎・中学理科/中学数学】が出発点
Q3. Q1・Q2はYESだが、本問のように「急速静注後の濃度が、設定上 Css と一致するタイミングで定速静注を開始する」というシナリオで、なぜ濃度が動かないのかが直感的に説明できない方
→ 【表層・大学薬学】の問題です。下の【表層】セクションで、ローディングドーズと維持投与の連結を整えます。
→ 自分のレベルに応じて、次の章のどこから読むか選んでください。全員が中学から戻る必要はありません。
🧭 躓きの階層別 — どこから学び直すかを選ぶ
自己診断の結果に応じて、該当する階層から読み進めてください。すでに腑に落ちている階層はスキップしてOKです。
【表層】Q3 に該当した方 — 大学薬学の「維持投与の連結」を整える
本問の核心は、「急速静注で立ち上げた濃度が、ちょうど定常状態の濃度(Css)まで自然減衰したタイミング」で定速静注に切り替えているという点です。
一般に、負荷投与(ローディング)は目標濃度へ速やかに近づけるために用いられ、その後の維持投与で目標濃度域を保つ、というのが臨床の投与設計の基本的な考え方です。一方、本問はこの一般論をそのまま適用したものではなく、教育的設定として組まれている点に注意してください:
- 急速静注直後の推定濃度は 20 μg/mL(これは目標 Css ではない)
- 目標 Css は 5.0 μg/mL(4時間後に自然減衰でこの値に到達)
- その時点で維持投与に接続することで、接続瞬間から定常状態を維持できる
つまり本問は「急速静注直後に目標 Css に到達させる」標準的な負荷投与の設計ではなく、「自然減衰の経過上で、設定上 Css に到達する時刻に維持投与を起動する」という、定常状態の本質を学ぶための理想化シナリオです。
⚠️ 臨床応用上の注意:実際の投与設計は、薬物ごとの治療域・毒性・TDM(治療薬物モニタリング)の必要性・腎機能などに応じて調整されます。たとえばアミノグリコシド系では、本問のような連続定速静注ではなく、間欠投与+TDMを基本とする運用が一般的です。本問はあくまで1-コンパートメントモデルで「定常状態とは何か」を学ぶための教育的設定として理解してください。
📌 本記事の前提:以下の解説は、国試計算上の理想化モデルとして線形1-コンパートメントモデルを扱います。実際の投与設計では、患者背景、腎機能、治療域、TDMの結果などを踏まえて個別に判断されます。
本問の設定が「4時間後に定速静注を開始」となっているのは偶然ではなく、4時間後の自然減衰で到達する濃度(5.0 μg/mL)を目標 Css として、その時点の消失速度と釣り合う k0 を求めさせるという出題意図です。
ポイント:定常状態の式 Css = k0 / CL は、「定速静注下で投与速度と消失速度が釣り合い、濃度変化が0になる濃度」を表す式です。本問では、急速静注後4時間の濃度がちょうどこの Css と一致しているため、その時点から濃度が維持されます(定速静注だけを長時間続けて漸近的に到達したわけではない、という点に注意)。
→ もしここで詰まる感覚があれば、下の【中層】へ。
【中層】Q1 で「NO」だった方 — 高校化学・数学Ⅱを土台に整える
高校化学の「反応速度」 → 大学薬学の「一次消失モデル」
反応速度が濃度に依存するという考え方は、高校化学の「反応速度」と接続できます。一方、本問で使う一次消失モデルの定量式
C(t) = C0 · e−kt, t1/2 = ln 2 / k
は、大学薬学で本格的に扱う内容です。高校化学の反応速度の考え方と高校数学Ⅱの指数・対数を土台にして、薬物動態学で一次消失モデルとして整理されます(高校化学の教科書でも一次反応の半減期に触れる場合はありますが、薬物動態への応用は大学レベル)。
導出は、C = C0/2 と置くと e−k·t1/2 = 1/2 → −k·t1/2 = ln(1/2) = −ln 2 → t1/2 = ln 2 / k となります。
本問で必要な使い方:t1/2 = 2 h(表から読み取り)→ k = ln 2 / 2 = 0.693 / 2 = 0.3465 /h。
高校数学Ⅱ:指数関数と対数
- 指数関数(高校数学Ⅱ):y = ax の形。半減期2時間なら、t時間後に残る割合は (1/2)t/2。
- 自然対数 ln:底が e(≈ 2.718)の対数。e−kt を扱うときに登場。ln 2 = 0.693 は語呂で覚えておくと国試の計算が速い。
- e(ネイピア数)は高校数学Ⅲで本格的に学びますが、薬剤師国試の薬物動態では「ln 2 ≈ 0.693」「ln 10 ≈ 2.303」の2つを覚えておけば9割の計算が片付きます。
→ 上記すべてが整理できているのに「定常状態」のイメージが湧かないなら、下の【基礎】を確認してください。
【基礎】Q2 で「NO」だった方 — 中学理科・数学の感覚を土台に整える
中学理科:「量は勝手に増えも減りもしない」感覚を土台にする
中学2年理科の「質量保存の法則」は、化学変化前後の質量保存を扱う単元です。本問の薬物動態学にそのまま使うわけではありませんが、「量は勝手に増えも減りもしない」「外から入った分・外へ出た分でしか変化しない」という感覚を、ここで身につけることが重要です。
この感覚を土台に、大学薬学では「流入速度と流出速度が等しい状態 = 定常状態」として濃度の維持を理解できます。
蛇口から一定速度 k0(L/分)で水が入り、排水口から速度 vout(L/分)で出る浴槽を想像してください。
| 条件 | 浴槽の水位 |
|---|---|
| k0 > vout | 上がる(入る量が多い) |
| k0 < vout | 下がる(出る量が多い) |
| k0 = vout | 変わらない(定常状態) |
薬物動態の「定常状態」も同じ構造です。血中薬物量が変わらない=入る速度と出る速度が釣り合っている、ただそれだけ。
中学1年数学:比例関係と単位換算
- 濃度 × 体積 = 量:これは中学1年で学ぶ比例の応用です。20 mg/L × 20 L = 400 mg のように、単位を素直に掛け算すれば質量が出ます。
- μg/mL = mg/L:両辺を1000倍ずつしても比は変わりません。20 μg/mL = 20 mg/L です。
中学2年数学:一次関数と「変化の割合」
「単位時間あたり何 mg 入るか」が定速静注速度 k0(mg/h)。「単位時間あたり何 mg 出るか」が消失速度。両者が等しい条件は、中学の一次関数で言えば「傾き 0 の直線」、つまり水平に動かない状態に対応します。
すでにこの内容が腑に落ちている読者は、上の階層に戻って自分の躓き箇所を探してください。
🏛 知識の階層構造で整理する
このピラミッドは「読者がどの階層まで降りる必要があるか」を可視化したマップです。自分の現在地によって出発点は異なります:
- 表層だけで対応できる方 → 上の【表層】を読んで、急速静注と定速静注の連結シナリオを整理する
- 中層まで戻る必要がある方 → 高校化学の反応速度論と高校数学Ⅱの指数関数を復習してから【表層】へ
- 基礎まで戻る必要がある方 → 中学理科・数学で身につける量の感覚、比例、単位換算から積み直して【中層】→【表層】へ
全員が必ずしも最下層から始める必要はありません。
🎯 学び直しロードマップ — あなたの現在地に応じた経路
自己診断の結果に応じて、開始 Step を選択してください。所要時間は初学者の目安。
- 🟢 表層レベルの方(Q1・Q2 YES、Q3 に該当)→ Step 4 から開始
- 🟡 中層レベルの方(Q1 で NO、Q2 で YES)→ Step 2 から開始
- 🔴 基礎レベルの方(Q2 で NO)→ Step 1 から開始
- Step 1:中学理科・数学の「量の保存感覚」と単位換算を復習(目安30分)
- 蛇口と排水口の例で「定常状態 = 入と出が等しい」を腑に落とす
- μg/mL と mg/L が等価であることを確認
- Step 2:高校化学「反応速度」と高校数学Ⅱ「指数・対数」を概観(目安1時間)
- 一次消失モデルの半減期式 t1/2 = ln 2 / k が、反応速度の考え方と指数・対数を土台にしていることを確認
- C(t) = C0 e−kt からの導出をたどる
- Step 3:高校数学Ⅱ「指数関数・対数関数」を読み直す(目安1時間)
- (1/2)t/t1/2 と e−kt が同じ関数の別表現であること
- ln 2 ≈ 0.693、ln 10 ≈ 2.303 を覚える
- Step 4:大学薬学「ローディングドーズと維持投与の連結(一次消失モデル)」に戻る(目安2時間)
- Css = k0 / CL は「投与速度と消失速度が釣り合い、濃度変化が0になる濃度」を表す式
- 本問は「急速静注で先に Css に到達 → そこから維持」というパターン
- 別解(k0 = k × A)で V や CL を経由せず一発で出せる
🧪 シミュレーターで「入と出のつりあい」を体感する
本記事には専用のインタラクティブシミュレーターを用意しています。スライダーで定速静注速度 k0 を動かしながら、血漿中濃度の挙動を確認できます。
- k0 = 35 mg/h(正答)→ 4時間時点の濃度 5.0 μg/mL がそのまま維持される(定常状態)
- k0 < 35 mg/h(過少投与)→ 濃度は低下し、より低い Css = k0/CL に漸近する
- k0 > 35 mg/h(過剰投与)→ 濃度は上昇し、より高い Css = k0/CL に漸近する
線形1-コンパートメントモデルでは、濃度は無限に変化し続けるのではなく、必ず投与速度に対応する新しい定常状態濃度に向けて落ち着いていく点に注意してください。「なぜ35 mg/hだけが特別か」を、頭ではなく目で理解してください。
📚 関連する国試問題
- 第111回 問173:CLtot = CLr + CLnr の分解視点(同じ薬剤の単元、クリアランスの分解)
- 第111回 問45:イヌリンの腎クリアランスと濃度関係(GFR と分布容積の関係)
- 第111回 問46:薬物動態の基本パラメータ(V, CL, t1/2 の関係)
※ 関連問題は、本ブログ「国試 Why?」シリーズで順次解説中です。
📝 まとめ — 元教授からの一言
問174は、表面的には「公式に当てはめるだけ」の計算問題に見えます。しかし本当に問われているのは、「定常状態とは何か」を自分の言葉で説明できるかという一点です。
- 「公式 Css = k0 / CL を覚えている」だけでは、急速静注と定速静注を連結する本問のような変形で詰まる
- 「定常状態 = 入と出のつりあい」と腑に落ちているなら、k0 = k × A の別解で V や CL を経由せず一発で答えが出る
躓きの階層は読者によって異なります。「半減期の式が分からない」のと「定常状態のイメージが湧かない」のは別の躓きであり、必要な学び直しも違います。自分の現在地を見極めて、そこから上に積み上げていくこと。それが「次に同じパターンの問題を落とさない」唯一の道です。
シミュレーターでは、定速静注速度 k0 をスライダーで動かしながら濃度の動きを観察できます。正解値 35 mg/h で濃度が 5.0 μg/mL のまま水平に維持され、それ以外では新しい定常状態 Css = k0/CL へ向けて上昇または下降して漸近する様子を、ぜひ自分の目で確かめてください。
薬学博士 有馬 英俊
元 熊本大学 製剤設計学 教授/元 第一薬科大学 教授/『最新製剤学[第4版]』編者/薬剤師
💌 ご意見・ご質問をお寄せください
本記事の内容に誤りや不明な点がありましたら、ぜひお知らせください。読者の皆さまからのフィードバックを真摯に受け止め、より正確で分かりやすい記事に改善してまいります。

