リアルワールドデータ(RWD)を象徴する地球儀と医薬品・統計アイコンが並ぶ未来的な研究デスクのイメージ

リアルワールドデータ(RWD)とは?医薬品開発を変える最新動向を解説

1.はじめに

医薬品開発の現場では、臨床試験に加えて「リアルワールドデータ(Real World Data:RWD)」の活用が進んでいます。特に、希少疾患や臨床試験が困難な状況において、RWDは医薬品の承認を支える新たな証拠として重要な役割を果たしています。

この記事では、RWDの基本から、実際に薬事承認へ活用された事例、そして今後の展望までを分かりやすく解説します。

2.リアルワールドデータ(RWD)とは?

リアルワールドデータとは、日常の医療現場や患者の生活の中で生まれる医療情報を指します。具体例としては、以下が挙げられます。

  • 電子健康記録(EHR)
  • 保険請求データ
  • 疾患レジストリ
  • 患者報告アウトカム(PRO)
  • 医療機器からのデータ
  • 観察研究のデータ

これらの情報から得られる知見は「リアルワールドエビデンス(RWE)」と呼ばれ、医薬品の開発や承認審査において重要な役割を果たしています。

3.RWDを用いた薬事承認の革新事例

3.1. パルボシクリブ(IBRANCE)の男性乳がんへの適応拡大(米国FDA:2019年)

最も広く知られている事例の一つが、パルボシクリブ(イブランス)の男性乳がん患者への適応拡大です。

背景と概要:

  • パルボシクリブは当初、HR陽性/HER2陰性の進行・転移性乳がんの女性患者を対象に2015年に迅速承認、2017年に正式承認された。
  • 男性乳がんは希少疾患(全乳がん症例の約1%)であり、臨床試験の実施が困難
  • 2019年4月、FDAは臨床試験を行わずにRWDを用いて男性乳がんへの適応拡大を承認

使用されたRWD:

  • Flatiron Health社のEHR(電子カルテ)データベース:実臨床下での腫瘍縮小効果や特定の有害事象を評価
  • IQVIA社の保険請求データベース:治療継続期間を評価
  • Pfizerの社内安全性データベース(ARGUS):男性患者における安全性プロファイルを確認
  • これらは「真実を三角測量する」アプローチとして複数のデータソースを組み合わせて使用

承認の根拠:

  • 生物学的根拠:男性と女性の乳がんにおける生物学的類似性
  • 既存の強固な臨床データ:女性患者での一貫した治療効果
  • RWDによる男性患者での腫瘍縮小効果と治療継続性の確認
  • 安全性データの確認

この事例は、希少疾患において臨床試験を行わずにRWDを活用した薬事承認の成功例として注目されています。

3.2. ニチシノン(ORFADIN)の遺伝性チロシン血症1型への承認(FDA/EMA)

背景と概要:

  • 遺伝性チロシン血症1型は極めて希少な代謝性疾患
  • FDAとEMAの両方で拡大アクセスプログラム(Expanded Access Program)からのRWDのみに基づいて承認

使用されたRWD:

  • 25か国87病院から収集された拡大アクセスプログラムのデータ
  • 患者の疾患経過と治療アウトカムに関するデータ

承認の根拠:

  • 疾患の希少性と深刻さ
  • 治療選択肢の不足
  • 明確な臨床的有効性の証拠
3.3. コール酸(CHOLBAM)の胆汁酸合成障害への承認(FDA/EMA)

背景と概要:

  • 胆汁酸合成障害は極めて希少な先天性代謝異常症
  • 両規制当局がRWDのみで承認

使用されたRWD:

  • 拡大アクセスプログラムから収集された患者データ
  • 治療前後の胆汁酸レベルの変化に関するデータ

承認の根拠:

  • 「対象となる適応症はあまりにも稀であるため、申請者が包括的なエビデンスを提供することが合理的に期待できない」
  • 「そのような情報を収集することは、一般的に受け入れられている医療倫理の原則に反する」という倫理的考慮
3.4. ソジウム・フェニルアセテート/ソジウム・ベンゾエート(AMMONUL)の尿素回路障害への承認(FDA)

背景と概要:

  • 急性高アンモニア血症を引き起こす尿素回路障害の治療薬
  • FDAが拡大アクセスプログラムのデータのみで承認

使用されたRWD:

  • 拡大アクセスプログラムからの患者アウトカムデータ

承認の根拠:

  • 治療効果の大幅な改善:歴史的対照群の生存率は48%だったのに対し、治療群は80%
  • 疾患の急性かつ生命を脅かす性質
3.5. ウリジン・トリアセテート(VISTOGARD)の5-FU/カペシタビン過量投与への承認(FDA)

背景と概要:

  • 抗がん剤5-フルオロウラシル(5-FU)またはカペシタビンの過量投与に対する救命治療薬
  • FDAが拡大アクセスプログラムのRWDのみで承認

使用されたRWD:

  • 拡大アクセスプログラムからの患者転帰データ

承認の根拠:

  • 顕著な治療効果:支持療法のみでの生存率は16%だったのに対し、治療群は97%
  • 生命を脅かす緊急状況での明確な効果
3.6. サーリポナーゼ アルファ(BRINEURA)の神経セロイドリポフスチン症2型(CLN2)への承認(EMA)

背景と概要:

  • 小児の進行性神経変性疾患である神経セロイドリポフスチン症2型(CLN2)の治療薬
  • EMAによる特例的条件での承認

使用されたRWD:

  • DEM-CHILD自然歴レジストリデータが外部比較対照として使用

承認の根拠:

  • 疾患の希少性と重篤性
  • 治療選択肢の不足
  • 治療群と自然歴データの比較による明確な臨床的効果

4. 日本におけるRWD活用による承認事例

日本では、RWDのみでの承認事例はまだ限定的であるが、以下のような例があります:

4.1. アルグルコシダーゼ アルファ(マイオザイム)の糖原病II型への承認(2007年4月)

使用されたRWD:

  • 米国におけるレトロスペクティブなコホート研究の自然歴データ(生存率)を外部比較対象として利用
4.2. アルガトロバン水和物(ノバスタンHI注、スロンノンHI注)のヘパリン起因性血小板減少症2型への追加適応(2011年5月)

使用されたRWD:

  • 治験実施施設で抗トロンビン薬を使用しなかったHIT2型患者のデータを収集し外部比較対照として利用
4.3. タクロリムス水和物(プログラフ)の多発性筋炎・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎への承認(2013年6月)

使用されたRWD:

  • 本邦におけるレトロスペクティブなコホート研究の自然歴データ(生存率)を外部比較対照として利用
4.4. アスホターゼ アルファ(ストレンジック)の低ホスファターゼ症への承認(2015年8月)

使用されたRWD:

  • 米国におけるレトロスペクティブなコホート研究の自然歴データを外部比較対照として利用
4.5. ペルツズマブ+トラスツズマブ併用療法(パージェタ+ハーセプチン)のHER2陽性大腸がんへの承認(2022年3月)

使用されたRWD:

  • SCRUM-Japanレジストリの自然歴データを外部比較対照群として利用
  • 日本初の、レジストリデータが薬事承認の評価資料として使用された事例

5. RWD活用の特徴と条件

RWDが臨床試験の代わりに承認審査に活用される場合の特徴と条件は以下のとおりです:

5.1. 適応症の特徴
  • 希少疾患:患者数が極めて少なく、通常の臨床試験の実施が困難
  • 高い未充足医療ニーズ:有効な治療選択肢が不足している状況
  • 倫理的考慮:プラセボ対照試験の実施が倫理的に問題となる疾患
  • 緊急状況:生命を脅かすような状況で迅速な対応が必要な場合
  • 男性乳がんのような特定の患者集団:全体的には治療法が確立しているが、特定の患者層で臨床試験が困難な場合
5.2. 活用されるRWDの種類
  • 疾患レジストリデータ:自然歴データやベースラインを提供
  • 電子健康記録(EHR):実際の臨床現場での治療効果やアウトカムを把握
  • 保険請求データ:治療パターンや継続性を評価
  • 拡大アクセスプログラムのデータ:治験前/治験外での使用経験
  • 症例報告書や医療チャートのレトロスペクティブデータ
  • 安全性データベース:有害事象プロファイルの確認
5.3. 承認の条件と評価方法
  • 外部比較対照としての利用:自然歴データと比較した生存率や疾患進行の改善
  • 生物学的妥当性:既存の科学的知見との整合性
  • 複数のデータソースによる「三角測量」:異なるソースからのデータの整合性確認
  • EMAの「例外的状況下での承認」:特に希少疾患での特別な規制枠組み
  • 市販後データ収集の義務付け:継続的なモニタリングの要求

6. 各国規制当局のRWD活用への取り組み

6.1. 米国FDA
  • 包括的なフレームワークの提示:2018年に「RWEプログラム」を策定
  • 積極的な取り組み:データの標準化、品質評価基準の開発
  • 共同プロジェクト:複数のデータベースプロバイダーと協力
  • オンコロジーRWEプログラム:がん領域でのRWD活用を特に推進
6.2. 欧州EMA
  • 戦略的な推進:RWDの活用促進に向けた活動方針を策定
  • リコメンデーション文書:データソースに関する推奨事項を発出
  • 例外的状況下での承認制度:希少疾患へのRWD活用を促進
6.3. 日本PMDA
  • 戦略的な取り組み:レジストリデータ活用の枠組み構築
  • 基本的考え方の文書化:2021年に「承認申請等におけるレジストリの活用に関する基本的考え方」を発行
  • 対面助言制度:レジストリ活用相談、レジストリ使用計画相談など
  • 信頼性担保のための質疑応答集:実務的なガイダンスの提供
  • MID-NETなどのプラットフォーム構築:国内でのRWD基盤整備

7. 課題と展望

7.1. 課題
  • データの信頼性と品質:非介入データにおけるバイアス排除の難しさ
  • 統計解析の方法論:少数例での適切な解析手法
  • 規制の整備:RWD活用のための規制フレームワークの未成熟さ
  • データ収集・管理方法の差異:標準化の不足
  • 日本におけるRWD環境の未整備:品質の均一性や信頼性の確保が不十分
7.2. 今後の展望
  • 多様なRWDソースの統合:異なるデータソースを組み合わせた「三角測量」アプローチの普及
  • AI・ML技術の活用:RWDの質向上と効率的な解析
  • 国際調和:FDA、EMA、PMDAなど規制当局間での評価基準の調和
  • レジストリの質向上:疾患レジストリの設計段階からの規制対応の考慮
  • 日本における基盤整備:MID-NET®の拡充や新たなデータ基盤の構築PMDA

8. 結論

リアルワールドデータを活用した臨床試験なしでの薬事承認は、特に希少疾患や高い未充足医療ニーズがある疾患において、重要な選択肢となっています。パルボシクリブの男性乳がん適応拡大など、複数のデータソースを組み合わせたRWD活用の成功事例が増えつつあります。

日本においても、PMDAがレジストリデータなどのRWD活用に向けた基本的考え方を示し、薬事承認の事例も増えてきています。特に、2022年のSCRUM-Japanレジストリを用いたHER2陽性大腸がん治療薬の承認は、日本におけるレジストリデータ活用の先駆的事例となっています。

今後、データの質と信頼性の担保、規制の整備、国際調和などの課題に取り組みながら、RWDの活用範囲はさらに拡大していくことが期待されます。RWDは通常の臨床試験を完全に代替するものではありませんが、慎重に設計・評価された場合には、医薬品開発と規制意思決定の貴重なツールとなることが示されています。

免責事項

本記事は、医療従事者向けの情報提供を目的としており、特定の医薬品の使用や承認を推奨するものではありません。掲載内容は信頼性の高い情報に基づいていますが、最新の法規制や個別の医療判断については、必ず各国の規制当局や専門医にご確認ください。

本記事は生成AIを活用して作成しています。内容については十分に精査しておりますが、誤りが含まれる可能性があります。お気づきの点がございましたら、コメントにてご指摘いただけますと幸いです。

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