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AIは薬剤性ディスバイオーシスを予測できるか?腸内細菌と薬の相互作用—臨床応用の最前線—

1.はじめに

毎日ヤクルト1000を愛飲しているブログ主です。さて、日々の臨床で処方される多くの薬剤ですが、その効果を期待する一方で、患者さんの腸内細菌叢にどのような影響を与えているか、深く考えたことはありますか?近年、腸内細菌が免疫、代謝、さらには精神状態にまで関与することが明らかになり、その健康状態を維持することの重要性が広く認識されています。薬剤が引き起こす腸内細菌叢の乱れ、すなわち「薬剤性ディスバイオーシス」は、下痢や便秘といった消化器症状だけでなく、易感染性や原疾患の増悪、さらには薬剤の効果減弱や副作用増強の原因となり得ます。もし、AI(人工知能)を用いて、ある薬が特定の患者さんの腸内細菌に与える影響を事前に予測できたとしたら、医療はどのように変わるでしょうか。本記事では、「AIと腸内細菌」の専門家として、この問いに対する最新の研究成果と臨床応用の可能性を分かりやすく解説していきます。


2.なぜ今、「薬と腸内細菌の相互作用」が重要視されるのか?

私たちの腸内には、数百種類、数十兆個にも及ぶ細菌が共生し、複雑な生態系、すなわち「腸内マイクロバイオーム」を形成しています。彼らは単に食物の消化を助けるだけでなく、ビタミンの産生、免疫系の成熟、そして病原体の侵入防御といった、宿主の健康維持に不可欠な役割を担っています。この腸内細菌叢のバランスが崩れた状態をディスバイオーシス(dysbiosis)と呼び、様々な疾患のリスクを高めることが知られています。薬剤、特に抗菌薬が腸内細菌に大きな影響を与えることは広く知られていますが、近年の大規模研究により、非抗菌薬(抗菌薬以外の薬)の多くも腸内細菌の増殖を阻害したり、その組成を変化させたりすることが明らかになってきました。

この相互作用は、大きく2つの方向性で捉えることができます。一つは「薬から菌へ」の影響、つまり薬剤が特定の腸内細菌の増殖を抑制し、ディスバイオーシスを引き起こす流れです。もう一つは「菌から薬へ」の影響で、こちらは腸内細菌が薬剤を代謝することで、その効果を増強・減弱させたり、あるいは毒性のある物質に変えてしまったりする流れです。例えば、腸内細菌によって初めて有効成分に変換されるプロドラッグもあれば、逆に不活化されてしまう薬剤もあります。こうした相互作用の個人差は、同じ薬を投与しても効果や副作用の出方が患者さんごとに異なる「薬物応答性の個人差」の一因と考えられており、この複雑な関係性を解き明かす鍵として、AI技術に大きな期待が寄せられているのです。


3.AIは相互作用を「どこまで」予測できるのか?最新エビデンスを読み解く

AI、特に機械学習の技術は、膨大なデータの中に潜む複雑なパターンを学習し、未知の事象を予測することを得意とします。この能力が、「薬と腸内細菌」という複雑系を解析する上で強力な武器となっています。ここでは、AIが具体的に何をどこまで予測できるのか、信頼性の高いトップジャーナルに掲載された研究を基に3つの観点から解説します。

観点1:薬が菌の「増殖」を阻害するかの予測(薬→菌への影響)

臨床で用いられる多くの薬剤が、腸内細菌にどのような影響を与えるのでしょうか。この問いに答えるため、ある画期的な研究(Nature, 2018; Nature Communications, 2021)では、ヒトの腸内に生息する代表的な細菌40株と約1,200種類の既存薬を一つずつ掛け合わせ、細菌の増殖が阻害されるかどうかを網羅的に調査しました。その結果、驚くべきことに非抗菌薬の約4分の1(27%)が、少なくとも1種類以上の腸内細菌の増殖を抑制したのです。特に、抗がん剤や向精神薬、カルシウム拮抗薬などでその傾向が強く見られました。

この膨大な「薬と菌の相性データ」を教師データとして、研究チームは機械学習モデルを構築しました。薬の化学構造情報(SMILESという文字列で表現される構造式の特徴量など)と、菌が持つ代謝経路のプロファイル(KEGGなどのデータベースに基づく特徴量)を入力すると、その薬が特定の菌の増殖を阻害する確率を算出するモデルです。このモデルの精度は非常に高く、未知の薬や菌の組み合わせに対しても、ROC AUCスコア0.9以上という高い精度で増殖阻害を予測できることが示されました。これは、AIが薬の構造を見るだけで、どの腸内細菌に悪影響を及ぼすかをかなりの確度で言い当てられることを意味します。

観点2:菌が薬を「代謝」するかの予測(菌→薬への影響)

次に、腸内細菌が薬をどのように変化させるか、という視点です。腸内細菌が持つ多様な酵素は、私たちが経口摂取した薬を体内に吸収される前に化学的に修飾(代謝)することがあります。この代謝によって薬の効果が大きく変わるため、これを予測することは個別化医療の実現に不可欠です。最近の研究(Nature, 2019; eLife, 2022)では、この「誰が(どの菌が)、何を使って(どの酵素で)、何を(どの薬を)」代謝するのかを予測するAIモデルが開発されました。

例えば、SIMMERと名付けられたモデルは、薬の化学構造における反応が起こりやすい部分(反応中心)の情報から、その反応を触媒できる腸内細菌の酵素を高い精度(約93%)で予測することに成功しました。これにより、例えば抗リウマチ薬のメトトレキサートがどの腸内細菌によって分解されるか、といったことを事前に予測し、効果の個人差を説明する手がかりを得ることができます。このようにAIは、薬の効果や毒性がなぜ患者さんごとに違うのか、その一端を担う腸内細菌の働きを分子レベルで解明し始めています。

観点3:「個人」レベルでの影響予測の実現へ

最終的なゴールは、個々の患者さんの腸内細菌叢データを用いて、薬の影響をパーソナライズして予測することです。同じ菌種でも、株(ストレイン)レベルでは持つ酵素が異なるため、より解像度の高い分析が求められます。この課題に対し、AGORA2という計算代謝モデル(Nature Biotechnology, 2023)が開発されました。これは、7,000株以上の腸内細菌の代謝マップを内蔵した巨大なデータベースです。

患者さん個人の便から得られるメタゲノム(腸内細菌叢の全遺伝子情報)データとAGORA2を組み合わせることで、その人の腸内細菌叢全体として、特定の薬を代謝する能力がどの程度あるかをシミュレーションできます。例えば、強心薬のジゴキシンを不活化してしまう菌を持つ人や、パーキンソン病治療薬のL-DOPAを副作用の原因物質に変えてしまう菌を多く持つ人などを、投薬前に層別化できる可能性があります。これは、いわば「in silico(コンピュータ内)での臨床試験」であり、個別化医療の実現に向けた大きな一歩と言えます。


4.臨床現場での現実的な「実装イメージ」と注意点

AIによる予測技術が発展する一方で、これを明日からの臨床現場でどのように活用できるのか、具体的なイメージを持つことが重要です。現時点では、AIの予測結果を直接的な診断や処方変更に用いるのは時期尚早であり、あくまで臨床医の意思決定を支援する補助的ツールとしての活用が現実的です。

実装のイメージとしては、まず患者さんの背景情報(年齢、性別、BMIなど)、服用中の薬剤リスト、そして可能であればメタゲノム解析による腸内細菌叢データをシステムに入力します。するとAIは、Step 2で紹介したようなモデルを用いて、①特に腸内細菌への増殖阻害リスクが高い薬剤、②患者さんの腸内細菌によって効果が減弱・増強される可能性のある薬剤、などをリストアップし、リスクスコアとして提示します。例えば、多剤併用(ポリファーマシー)状態にある高齢者において、腸内環境への影響が最も大きいと予測される薬剤を特定し、減薬や代替薬を検討する際の優先順位付けに役立てることが考えられます。

ただし、利用にはいくつかの注意点があります。第一に、AIの「影響なし(陰性)」という予測を鵜呑みにはできないということです。現在のモデルは、「影響あり(陽性)」を高い精度で検出できますが、「影響なし」と予測されたものが本当に無影響であると断定するには、まだ感度(見逃しがないか)の面で課題が残ります。第二に、予測はあくまでin silicoのものであり、実際の腸管内での薬物濃度や滞留時間、食事内容、他の併用薬との相互作用といった複雑な要因は完全には再現できていません。したがって、AIの予測を参考にしつつも、最終的な判断は、患者さんの臨床経過や他の検査所見と合わせて、主治医と薬剤師が総合的に下すことが不可欠です。


5.AI予測の限界と今後の展望—個別化医療の未来へ

AIによる予測は強力なツールですが、万能ではありません。その限界を正しく理解し、今後の技術開発に期待を寄せることが重要です。

最大の課題の一つが多剤併用(ポリファーマシー)です。現在の研究の多くは単剤での影響をモデル化していますが、臨床現場、特に高齢者医療では複数の薬剤が同時に処方されることが常です。複数の薬剤が腸内細菌に与える影響は、単純な足し算(相加効果)だけでなく、相乗効果や拮抗効果も考えられ、その組み合わせは天文学的な数になります。この複雑な相互作用をAIでモデル化することが、今後の大きな挑戦となります。また、同じ有効成分でも、徐放性製剤や腸溶性コーティングといった製剤(galenics)の違いが腸内での放出部位を変え、腸内細菌への影響を大きく左右する可能性も考慮に入れる必要があります。

今後の展望としては、AI技術が創薬プロセスそのものを変革する可能性が挙げられます。開発の初期段階で、腸内細菌への悪影響が少ない化合物をAIでスクリーニングしたり、特定の腸内細菌叢を持つ患者群でのみ効果を発揮するような、よりターゲットを絞った薬剤開発が進むかもしれません。また、ウェアラブルデバイスから得られるライフログデータや電子カルテ情報といったリアルワールドデータと腸内細菌データを統合し、より精緻な長期予測モデルを構築する研究も加速するでしょう。さらに、AIがなぜそのような予測をしたのか、その根拠を人間が理解できる形で示す「説明可能AI(XAI)」の技術が、臨床現場での信頼性を高める上で不可欠となります。

6.まとめ:未来の処方のための新たな羅針盤

本記事では、AIが薬の腸内細菌への影響を予測できるかという問いに対し、最新のエビデンスを基にその可能性と限界を解説しました。「研究レベルでは、明確に可能である」というのが現在の答えです。薬の化学構造から増殖阻害を予測し、菌の遺伝子情報から薬物代謝を予測し、さらには患者さん個人のデータに基づいた個別化シミュレーションまで、その技術は着実に進歩しています。

もちろん、多剤併用や個人差の完全な再現など、臨床で広く使われるまでには乗り越えるべきハードルが数多く残されています。しかし、AIという新たな羅針盤は、これまで経験と勘に頼らざるを得なかった「薬と腸内細菌の複雑な関係」を解き明かし、より安全で効果的な薬物治療、すなわち真の個別化医療を実現するための道筋を照らし始めています。私たち医療従事者は、この技術の動向を常に注視し、正しく理解し、未来の医療に活かしていく責務があると言えるでしょう。この記事が、先生方の明日からの臨床の一助となれば幸いです。

免責事項

本記事は、医療従事者を対象とした学術的な情報提供を目的としており、個別の患者様に対する診断や治療、医学的助言を行うものではありません。記事の内容は、執筆時点での科学的知見や論文に基づいていますが、その情報の正確性、完全性、および最新性を保証するものではありません。実際の臨床における判断は、必ず医師ご自身の責任において、患者様の具体的な状態に応じて行ってください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害や不利益についても、執筆者および発行元は一切の責任を負いません。

本記事は生成AIを活用して作成しています。内容については十分に精査しておりますが、誤りが含まれる可能性があります。お気づきの点がございましたら、コメントにてご指摘いただけますと幸いです。

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