2025年、AIが治験を変える。医療DXの進展により、CRC・CRAの働き方や臨床研究の在り方が大きく進化する未来を表現
治験業務におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が、いよいよ本格的なうねりとなって現場に到達しつつあります。その中心にあるのが、AI(人工知能)技術です。かつては未来の技術とされていたAIが、今まさに、私たちの日常業務を変え、治験のあり方そのものを再定義しようとしています。この記事では、「治験業務とAI」の専門家として、2025年9月現在の日本の最新動向を、医療関係者の皆様に向けて、分かりやすく、そして実践的に解説していきます。AIは単なる業務効率化ツールなのでしょうか?それとも、治験の質を飛躍させるゲームチェンジャーなのでしょうか?一緒に最前線を見ていきましょう。
まず、現在の日本の治験現場で、AIが「どこまで」活用されているのか、その全体像を地図のように見てみましょう。AIの技術的な成熟度や、規制・環境の整備状況によって、活用レベルは大きく3つの段階に分けることができます。この全体像を理解することで、今後、ご自身の業務にAIがどのように関わってくるのかを具体的にイメージできるようになります。
現在、多くの医療機関や製薬企業で実用化が進んでいるのは、主に「定型業務の自動化」に関連する領域です。例えば、膨大な書類の管理やチェック、過去のデータの検索といった、これまで多くの人手と時間を要していた作業です。一方で、医師の医学的判断に直接関わるような、より高度な領域でのAI活用は、まだ実証実験(PoC: Proof of Concept)や部分的な導入に留まっているのが実情です。そして、将来的には治験プロセス全体を最適化するような、さらに先進的な活用が期待されています。このように、AI活用は一様ではなく、領域ごとに異なるスピードで進んでいるのです。
それでは、具体的にどのような業務でAIの活用が「本番運用」として広がっているのでしょうか。ここでは、特に医療現場で働く皆様の業務に直結する4つの領域をピックアップし、具体的なサービス事例も交えながら解説します。これらの技術は、すでに多くの治験で導入が始まっており、CRCやCRAの働き方を着実に変えつつあります。
治験の入口である「同意取得」は、紙ベースの運用が長らく主流でしたが、ここにきて大きな変革が起きています。eConsentは、タブレットやPCを用いて、動画やイラストを交えながら、より分かりやすく治験内容を説明し、電子的に同意を取得する仕組みです。これにより、患者さんの理解度が深まるだけでなく、同意書の物理的な管理・保管の手間も大幅に削減されます。
さらに、このeConsentはDCT(Decentralized Clinical Trials:分散型臨床試験)という新しい治験の形を推進する上で不可欠な技術です。DCTとは、患者さんが来院する負担を減らし、オンライン診療やウェアラブルデバイス、治験薬の自宅配送などを活用して、在宅に近い環境で参加できるようにするアプローチです。例えば、武田薬品工業や愛知県がんセンターなどが導入を進めるMICIN社の「MiROHA」のようなサービスは、遠隔でのプレスクリーニング(治験参加の条件に合うかの事前確認)を可能にし、希少疾患など、これまで患者さんを集めるのが難しかった治験への参加機会を広げています。2023年3月に厚生労働省からeConsentに関するガイダンスが示されたことも、日本での導入を力強く後押ししています。
治験には、必須文書と呼ばれる膨大な量の書類が付き物です。これらのファイリング、保管、そして内容の整合性チェック(QC: Quality Control)は、CRCやCRAの業務の中でも特に時間のかかる作業の一つでした。ここに生成AIが導入され、劇的な変化をもたらそうとしています。
治験文書管理クラウドで高いシェアを誇るAgatha(アガサ)は、生成AIを活用した新機能を発表しました。このAIは、医療機関ごとに異なる複雑なファイル命名規則や保管ルールを学習し、アップロードされた文書を自動で適切な場所にファイリングしてくれます。さらに、同意説明文書に記載された日付や署名の有無、件数の整合性などをAIが自動でチェックし、QCレポートの作成まで支援します。これまで人間が目視で行っていた地道な確認作業をAIが肩代わりすることで、ヒューマンエラーを減らし、CRCやCRAはより付加価値の高い業務に集中できるようになるのです。
「あの治験の時、似たような問い合わせにどう回答しただろうか?」「この副作用は過去のプロトコルでどう規定されていたかな?」――。治験業務では、過去の膨大な文書やデータの中から必要な情報を探し出す場面が頻繁にあります。しかし、情報はCRO(開発業務受託機関)や製薬企業の各部署に分散しがちで、横断的な検索は困難でした。
この課題を解決するのが、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)と呼ばれるAI技術です。これは、ChatGPTのような大規模言語モデルに、治験実施計画書、総括報告書、議事録、照会応答記録といった専門的な社内文書を読み込ませ、それらの情報に基づいて質問に回答させる技術です。AIデータ社が提供する「IDX × AI孔明」のようなサービスは、まさにこのRAGを活用したナレッジ基盤です。これにより、「〇〇という薬剤の治験で報告された頭痛の有害事象について、関連する症例報告を要約して」といった自然な言葉での質問に対し、AIが社内文書を横断的に検索・分析し、的確な回答を生成してくれます。これにより、調査時間が大幅に短縮され、迅速な意思決定が可能になります。
治験実施計画書(プロトコル)や治験薬概要書、手順書といった専門文書の作成は、非常に専門性が高く、時間のかかる業務です。この領域でも、生成AIの活用が始まっています。まだβ版の提供など限定的な導入が多いものの、そのポテンシャルは計り知れません。
例えば、hashPeak社が開発する「peakDoc」は、複数のAIエージェントが協調して臨床試験文書の草案を作成するシステムです。人間が指示を出すと、AIが規制要件や過去の文書を参照しながら、論理的で一貫性のあるドラフトを生成します。もちろん、最終的な内容の正確性や医学的な妥当性は、専門家である人間がレビューし、修正を加える必要があります。しかし、たたき台作成という最も骨の折れる作業をAIに任せることで、文書作成のスピードと品質を両立させる「人間とAIの協働」という新しいワークフローが生まれつつあります。
現場でのAI活用をさらに加速させているのが、国、特に厚生労働省の強力な後押しです。規制当局が明確な方針を示すことで、製薬企業や医療機関は安心して新しい技術の導入に進むことができます。治験のデジタル化は、もはや一企業の取り組みではなく、国策として推進されているのです。
厚生労働省が公表した「医薬品開発における様々な課題への対応のあり方に関する検討会 とりまとめ(2025年版)」では、今後の方向性として、AI技術による症例分析の利活用促進、DCT実施体制の整備、そして電子カルテ(EHR)を含む治験データの標準化などが明確に掲げられました。これは、国として治験のDXを本格的に推進するという強いメッセージです。また、前述のeConsentガイダンスのように、新しい技術を現場で安全かつ適切に使うためのルール作りも進められています。これにより、これまで導入の障壁となっていた「規制の不透明さ」が解消されつつあり、SMO(治験施設支援機関)やCROが、標準化や遠隔対応、AI補助を前提とした新しい運用体制へ移行するための追い風となっています。
AIは治験に多くの恩恵をもたらしますが、万能の魔法の杖ではありません。特に、医薬品の安全性を扱う領域では、その導入に慎重な議論が必要です。AIの限界を正しく理解し、適切なガバナンス(管理体制)を構築することが、信頼性を確保する上で極めて重要になります。
治験中に発生する有害事象の報告と評価は、医薬品開発において最も重要な業務の一つです。この安全性情報管理(PV: Pharmacovigilance)の領域でもAI活用が期待されていますが、その役割はあくまで「補助的」なものと位置付けられています。例えば、国内外の文献や副作用報告データベースから、未知の副作用の兆候(シグナル)をAIが検出する、といった活用は進んでいます。
しかし、そのシグナルが本当に意味のあるものか、個別の症例の因果関係をどう評価するか、といった最終的な医学的判断は、必ず人間の専門家が行う必要があります。これは、CIOMS(国際医学団体協議会)などが提唱する国際的な原則でも強調されており、「Human oversight(人間の監督)」はAIガバナンスの根幹をなす考え方です。AIのアルゴリズムにはバイアスが潜む可能性があり、また、自由記述で書かれた曖昧な表現の解釈を誤るリスクもあるため、AIの判断を鵜呑みにせず、常に人間が監督し、説明責任を負う体制が不可欠です。
ここまで見てきたように、AIは治験業務の様々な側面に浸透しつつあります。では、この変化は、SMO/CROのビジネス、そして現場で働くCRCやCRAの役割を、最終的にどのように変えていくのでしょうか。これは、単なる業務効率化の話に留まらない、キャリアに関わる本質的な問いです。
AIによって定型業務が自動化されると、SMOやCROの価値の源泉は、「人手による作業量」から「専門的な知見とデータ活用能力」へとシフトします。例えば、AIによる文書チェックが標準化されれば、単にQC作業を代行するだけでは差別化が難しくなります。これからは、AIが処理した膨大なデータの中からリスクの予兆をいち早く発見し、プロアクティブな改善策を提案するような、より高度なコンサルティング能力が求められるでしょう。また、様々なシステムを連携させ、施設ごとの運用に合わせた「実装設計力」も重要なスキルセットになります。依頼者(製薬企業)側でもAIによるデータの内製化が進むため、CROはオープンなデータ連携を前提とした上で、より付加価値の高い分析サービスを提供する必要に迫られます。
では、現場のCRCやCRAの仕事はなくなってしまうのでしょうか?答えは明確に「No」です。むしろ、その専門性はさらに重要になります。AIが書類作成やデータチェックといった「作業」を肩代わりしてくれることで、CRCやCRAは、これまで以上に「人にしかできない業務」に集中できるようになります。
それは、不安を抱える被験者さんに寄り添い、信頼関係を築くコミュニケーション能力。複雑化するプロトコルを深く理解し、医師と対等に議論できる科学的・医学的な知識。そして、データの中に潜む逸脱の兆候を見抜き、治験の品質を維持するためのクリティカルシンキング(批判的思考力)です。AIを単なる効率化ツールとして使うのではなく、自らの専門性を高めるための「知的パートナー」として使いこなす。そうした視点を持つことが、これからの治験プロフェッショナルには不可欠です。AI時代に輝くのは、AIにはできない人間ならではの温かみと、高度な判断力を兼ね備えた人材なのです。
2025年、日本の治験業務におけるAI活用は、黎明期を終え、本格的な実装期へと突入しました。文書管理や同意取得といった現場の身近な業務から、その変革は着実に始まっています。AIは、私たちの仕事を奪う脅威ではなく、むしろ面倒な作業から解放し、より専門的で創造的な業務に集中させてくれる強力なパートナーです。
この大きな変化の波に乗り遅れないために、私たちにできることは、まずAI技術への理解を深め、その可能性と限界を正しく知ることです。そして、AIによって生み出された時間を、患者さんとの対話や、自己の専門性を高めるための学習に投資していくこと。そうすることで、私たちはAIを賢く活用し、より質の高い、スピーディな医薬品開発を実現できるはずです。治験の未来は、AIと人間が手を取り合って創り上げていくことが重要だと考えられます。
本記事は、公開時点(2025年9月)の情報に基づき作成されています。掲載内容の正確性については細心の注意を払っておりますが、その完全性、正確性、最新性を保証するものではありません。本記事の情報はあくまで一般的な情報提供を目的とするものであり、利用者がこの記事の情報を用いて行う一切の行為について、当方は何ら責任を負うものではありません。あらかじめご了承ください。
本記事は生成AIを活用して作成しています。内容については十分に精査しておりますが、誤りが含まれる可能性があります。お気づきの点がございましたら、コメントにてご指摘いただけますと幸いです。
Amazonでこの関連書籍「治験薬学(改訂第2版): 治験のプロセスとスタッフの役割と責任」を見る