未来的な薬局の空間で、薬剤師がGoogle AI Studio (Gemini) を使って報告書作成や服薬指導の資料作成を行っている様子を表すイラストです。AIが支援することで、在宅医療の質向上と業務負担軽減が期待されます。
いま、日本の医療は「病院から在宅へ」と大きくシフトしています。ご自宅で療養される患者さんが増える中、私たち薬剤師の役割も、薬局のカウンターの中だけにとどまらなくなりました。患者さんのご自宅へ訪問し、お薬の管理や服薬指導を行う「在宅業務」は、これからの地域医療を支える、まさに「縁の下の力持ち」とも言える重要な仕事です。
しかし、その重要性とは裏腹に、現場の薬剤師さんの負担は増大しています。訪問から戻れば山積みの書類作成、医師やケアマネージャーさんとの情報共有、患者さん一人ひとりに合わせた指導資料の準備……。「もっと患者さんとゆっくり話す時間が欲しいのに、事務作業に追われてしまう」そんなジレンマを感じている方も多いのではないでしょうか。
もし、その膨大な事務作業の一部を、信頼できる「賢いアシスタント」が手伝ってくれるとしたらどうでしょう？ 今回ご紹介するのは、Googleが提供する最新のAI（人工知能）ツール「Google AI Studio（グーグル エーアイ スタジオ）」です。この記事では、「Google AI Studioと薬剤師」の専門家として、このAIが薬剤師さんの在宅業務をどのようにサポートできるのか、具体的な活用法から注意点まで、やさしく、そして詳しく解説していきます。
「Google AI Studio」と聞いても、多くの方は「何だか難しそう…」と感じるかもしれません。大丈夫です、まったく難しくありません。 ものすごく簡単に言えば、これは「Googleが作った最新の超高性能AI『Gemini（ジェミニ）』を、誰でも無料（※一部制限あり）で試すことができるWebサイト」のことです。
「AI」というと、SF映画のようなものを想像するかもしれませんが、ここで言うAIは「生成AI（せいせいエーアイ）」と呼ばれるものです。生成AIとは、私たちが「こんな文章を作って」「これを要約して」と、まるで人間と会話するように「プロンプト（AIへの指示文のことです）」を入力すると、AIが自動で新しい文章やアイデアを生み出してくれる技術のことです。皆さんがよく耳にする「ChatGPT（チャットジーピーティー）」も、この生成AIの仲間です。
Google AI Studioで使える「Gemini」は、その中でも特に新しいAIで、文章（テキスト）だけでなく、画像や音声、動画まで理解できる「マルチモーダル」という能力を持っています。薬剤師の皆さんにとっては、「優秀で物知りな新人の後輩」や「24時間文句も言わずに働いてくれる秘書」が一人増えるようなイメージです。これを使わない手はありません。
では、なぜ特に「在宅業務」でAIの活用が注目されているのでしょうか。それは、在宅業務が非常に「個別性が高く」「情報量が多い」仕事だからです。 薬局での窓口業務と違い、在宅訪問では、患者さんの生活環境、家族構成、認知機能、服用中のすべてのお薬（他科受診分も含む）、さらには日々の体調の変化まで、あらゆる情報を把握する必要があります。
薬剤師さんは、訪問で得たこれらの膨大な情報を、薬局に持ち帰って整理しなくてはなりません。例えば、医師に提出する「薬剤管理指導報告書」の作成、ケアマネージャーさんへの情報共有、ご家族への説明資料の作成などです。これらはすべて、患者さんの安全を守るために不可欠な業務ですが、そのほとんどが「文章作成」であり、非常に時間がかかります。
ここでAIの出番です。AIは、文章を作成したり、情報を整理したりすることが非常に得意です。薬剤師さんが「患者さんと向き合う」という人間にしかできない専門的な仕事に集中できるよう、AIに「事務作業」や「下準備」を手伝ってもらう。これこそが、在宅業務にAIが必要とされている最大の理由です。患者さんのためにも、そして薬剤師さん自身の負担を減らすためにも、AIの活用は「選択」ではなく「必須」の時代になりつつあります。
在宅業務で最も時間のかかる作業の一つが、訪問後の「報告書作成」です。特に、医師やケアマネージャーに提出する報告書は、専門用語を使いつつ、訪問時の情報を正確にまとめる必要があり、一件あたり30分以上かかることも珍しくありません。
Google AI Studio（Gemini）は、この報告書作成の時間を劇的に短縮するお手伝いができます。AI Studioは、大量のテキストデータを学習しているため、医療現場で使われる「SOAP（ソープ）」という形式の記録方法も理解しています。
【用語解説】SOAP（ソープ）とは？ 医療現場で患者さんの記録を書くときの代表的な形式の一つです。
- S (Subjective): 患者さんの訴えなど（主観的情報）
- O (Objective): 検査結果や薬剤師が確認したこと（客観的情報）
- A (Assessment): SとOに基づいた薬剤師の「評価」
- P (Plan): 評価に基づく今後の「計画」（指導内容や医師への提案など） この形式に沿って書くことで、他の医療スタッフにも情報が伝わりやすくなります。
例えば、訪問から戻った薬剤師さんが、忘れないうちにAI Studioに「訪問時のメモ」を入力し、こうお願い（プロンプトを入力）するだけでいいのです。
【プロンプト例：報告書の下書き作成】
あなたはプロの薬剤師です。以下の訪問メモを基に、医師向けの薬剤管理指導報告書をSOAP形式で作成してください。
# 訪問メモ
- 患者：〇〇様（80代男性）
- 訪問日：10月30日
- S: 「最近、夜中にトイレに起きる回数が多くて眠れない。血圧の薬（アムロジピン）を飲み始めてから足がむくむ気がする」
- O: 残薬カレンダー確認。降圧剤の飲み忘れなし。血圧手帳（朝）130/80前後で安定。足首に軽度の浮腫（むくみ）あり。夜間頻尿は今週から急に増えたとのこと。
- P: 浮腫はアムロジピンの副作用の可能性を説明。夜間頻尿については、夕食後の水分摂取量を確認し、就寝2時間前からは控えるようアドバイス。
このように指示すると、AI Studio（Gemini）は瞬時に以下のような報告書の下書きを生成してくれます。
【AIによる生成例（下書き）】
S (主観的情報): 「最近、夜間頻尿がひどく、熟睡できない」 「降圧剤（アムロジピン）を服用してから、足のむくみが気になる」との訴えあり。 O (客観的情報): 残薬管理状況は良好。降圧剤の服薬アドヒアランス（※正しく薬を飲むこと）は保たれている。 血圧手帳（朝測定）は130/80 mmHg前後でコントロール良好。 両足首に軽度の圧痕性浮腫（※指で押すと跡が残るむくみ）を認める。 A (評価): 浮腫はアムロジピンの既知の副作用である可能性が考えられる。 夜間頻尿については、薬剤性の要因（利尿剤など）は考えにくく、生活習慣（水分摂取タイミング）の関与を評価中。 P (計画): 浮腫について、ご本人に副作用の可能性を説明し、次回の診察時に医師へ相談するよう促した。 夜間頻NIAについては、夕食後〜就寝前の水分摂取量を確認し、就寝2時間前からは摂取を控えるよう生活指導を行った。引き続き経過を観察する。
どうでしょうか。この下書きがあれば、薬剤師さんはゼロから文章を考える必要がなくなり、内容をチェックして修正・追記するだけで済みます。これだけでも、作業時間は半分以下になるはずです。
在宅業務で薬剤師に求められるもう一つの重要なスキルは、「患者さん一人ひとりに合わせた」説明です。ご高齢の方、認知機能が低下している方、薬の多さに不安を感じているご家族など、相手の状況に合わせて「言葉を翻訳する」必要があります。
しかし、毎回最適な言葉を選ぶのは大変な作業です。特に新しい薬の説明や、複雑な吸入薬、インスリン注射などの手技指導は、資料の準備にも時間がかかります。 Google AI Studio（Gemini）は、この「言葉の翻訳」と「資料作成」の強力なサポーターになります。
専門家である私たちは、無意識のうちに難しい言葉を使いがちです。そんな時、AI Studioに「翻訳」してもらいましょう。
【プロンプト例：高齢者向けの平易化】
あなたはベテラン薬剤師です。 「ワーファリン」という薬の注意点について、80代の患者さんにも理解できるように、やさしく、親しみやすい言葉で説明する文章を作成してください。「ビタミンK」や「納豆」というキーワードを必ず含めてください。
【AIによる生成例（やさしい説明）】
「〇〇さん、こんにちは。今日から始まる『ワーファリン』というお薬は、血液をサラサラにして、脳梗塞などを防ぐための大切なお薬です。 ただ、このお薬はちょっとデリケートなところがありまして、食べ物との相性に注意が必要です。 特に『ビタミンK』という成分をたくさん食べると、お薬の効果が弱くなってしまうことがあるんです。 例えば、納豆や青汁、クロレラといった食品に、このビタミンKはたくさん含まれています。 『絶対に食べてはダメ！』というわけではないのですが、急に毎日たくさん食べたり、逆にパタッとやめたりすると、お薬の効き目が不安定になってしまいます。 いつも通り、バランスよく食べていただくのが一番ですよ。もし納豆などをたくさん食べたくなった時は、教えてくださいね。」
このように、AIは患者さんの心に寄り添うような、温かみのある文章も作ることができます。
小児患者のご家族向け、あるいは外国人の患者さん向けなど、状況に応じた資料作成もAIの得意分野です。
【プロンプト例：ご家族向け資料作成】
子どもの「抗生物質のシロップ剤（粉薬を水で溶かすタイプ）」について、親御さん向けの「飲ませ方と保管方法のポイント」を箇条書きで作成してください。不安を取り除くような、安心できる口調でお願いします。
【プロンプト例：多言語対応】
「この吸入薬（例：レルベア）は、1日1回、毎日決まった時間に吸入してください」という内容を、英語と、やさしい日本語（ひらがな多め）で説明する文章を作成してください。
AI Studioを使えば、これまで薬剤師さんが頭を悩ませていた資料作成の時間を大幅に削減し、その分、患者さんやご家族の不安を聞き出す「対話」の時間に充てることができます。
在宅医療は、薬剤師一人では成り立ちません。医師、看護師、ケアマネージャー、ヘルパーなど、「チーム」での連携が不可欠です。しかし、皆が多忙な中で、電話やFAX、連絡ノートなどでの情報共有は煩雑になりがちです。
ここでもAI Studio（Gemini）が活躍します。AIは、長い文章を簡潔に「要約」することが大の得意です。 例えば、薬剤師さんが訪問時に取った長いメモ（訪問記録）をAI Studioに読み込ませ、「ケアマネージャーさんに今すぐ伝えるべき要点だけを抽出して」と指示することができます。
【プロンプト例：他職種への要約報告】
あなたは在宅担当の薬剤師です。 以下の訪問記録から、〇〇様（患者名）を担当するケアマネージャーへ、簡潔に情報共有するための「報告メール」の文案を作成してください。特に「残薬状況」「体調変化」「家族の懸念」に焦点を当ててください。
# 訪問記録 （ここに、薬剤師が記録した訪問時の詳細なメモを貼り付ける）
【AIによる生成例（ケアマネ向けメール文案）】
件名：【薬剤師訪問報告】〇〇様（10月30日）
〇〇様（ケアマネージャー名）
いつもお世話になっております。薬剤師の（あなたの名前）です。 本日、〇〇様宅を訪問しましたので、状況をご報告いたします。
1. 残薬状況： 降圧剤が3日分不足していました。ご本人曰く「朝、バタバタして飲み忘れることがある」とのことです。お薬カレンダーへのセットはご家族がされていますが、服薬確認が難しい時間帯があるようです。
2. 体調変化： 1週間前から「足のむくみ」を訴えられています。降圧剤（アムロジピン）の副作用の可能性も考えられます。
3. ご家族の懸念： 同居のご家族（長女様）が、「日中、一人にしている時の服薬が心配。デイサービスの利用を増やせないか」と話されていました。
薬局からは、服薬確認の方法についてご家族と再調整します。 また、むくみについては、かかりつけ医の〇〇先生に情報提供しておきます。
引き続きよろしくお願いいたします。
このように、AIが情報の「交通整理」をしてくれることで、報告漏れや伝達ミスを防ぎ、チーム医療全体の質を向上させることができます。必要な情報を、必要な相手に、適切な形で迅速に届ける。これは、多忙な在宅医療の現場において非常に強力な武器となります。
さて、ここまでご紹介したのは、主にGoogle AI Studioに「文章を作ってもらう」という活用法でした。 しかし、冒頭のGenspark記事のレビューで指摘したように、「フォームに入力したら自動でPDF報告書が完成する」といった「自動化」も、やり方さえ知っていれば実現可能です。
ただし、これはAI Studio 単体 ではできません。Googleが提供する別のビジネスツール群「Google Workspace（グーグル ワークスペース）」と、それを動かすための簡単なプログラミング「Apps Script（アップス スクリプト）」を組み合わせる必要があります。
【用語解説】Google Workspace / Apps Script
- Workspace: Gmailやカレンダー、Googleフォーム（アンケート作成）、スプレッドシート（Excelのような表計算）など、お仕事で使うツールがセットになったものです。
- Apps Script: これらWorkspaceのツール同士を連携させ、「もしフォームが送信されたら、スプレッドシートに書き込んで、自動でメールを送る」といった「自動化の仕組み」を作るための、Google独自のプログラミング言語です。
AI Studio（Gemini）を「考える脳みそ」だとするなら、WorkspaceとApps Scriptは「動かす手足」です。 この2つを組み合わせる（専門的にはAPI連携と言います）ことで、夢のような自動化が実現できます。
【未来の薬剤師業務（自動化イメージ）】
薬剤師さんがやったことは、「フォームにキーワードを入れただけ」。これで報告書作成から情報共有までが完了します。まさに「10分の作業が10秒に」という世界です。 この仕組みを作るには専門的な知識が必要ですが、今後はこうした自動化ツールも増えてくるはずです。AI Studioは、その「脳みそ」として中心的な役割を担っていくことになります。
ここまでAIの素晴らしい可能性についてお話ししてきましたが、専門家として、最も重要な「注意点」についてもお伝えしなければなりません。特に医療情報を扱う薬剤師さんは、以下の点を絶対に守ってください。
これが最も重要です。 Google AI Studioは、私たちが入力した内容（プロンプト）を、AIの性能向上のために「学習」する可能性があります。 つまり、患者さんの氏名、生年月日、住所、具体的な病名などの個人情報を、絶対にそのまま入力してはいけません。 もし入力してしまうと、その情報が学習データとして利用され、将来的に他の誰かがAIを使った時に、意図せず漏洩してしまうリスクがゼロではないからです。
【対策】必ず「匿名化」する AI Studioを使う際は、必ず情報を「匿名化」してください。
薬剤師さん自身がメモを見返すための要約や、一般的な服薬指導文の作成（例：「ワーファリンの注意点」など）に使うのは問題ありませんが、患者さん固有の機密情報を扱う際は、細心の注意を払ってください。（※より安全に使うためには、入力したデータを学習に使わない設定が可能な、企業向けの「Vertex AI」というサービスを利用するのが望ましいです。）
AIは非常に賢いですが、時々、事実に基づかない「ウソ」や「でっち上げ」の情報を、自信満々に答えることがあります。これを専門用語で「ハルシネーション（幻覚）」と呼びます。 例えば、薬の副作用について質問した際に、実際にはない（あるいは稀な）副作用を重大なものとして説明してしまう可能性もあります。
【対策】最終確認は必ず「薬剤師」が行う AIが生成した文章は、あくまで「下書き」であり「たたき台」です。 AIの回答を鵜呑みにし、そのまま患者さんや医師に伝えてはいけません。 生成された内容が医学的・薬学的に正しいかどうか、最新の添付文書やガイドラインと相違ないかをチェックし、必要に応じて修正・加筆する。その「最後の砦」としての専門的な判断は、AIではなく、必ず薬剤師さん自身が行ってください。
Google AI Studio（Gemini）は、魔法の杖ではありません。しかし、正しく使えば、薬剤師の皆さんを日々の膨大な事務作業から解放してくれる「最強のパートナー」になる可能性を秘めています。
AIは、薬剤師の仕事を奪うものではありません。むしろ、AIに任せられる作業はAIに任せることで、私たち薬剤師は、「薬の専門家」として、そして「一人の人間」として、患者さんやご家族と向き合い、対話し、安心を届けるという、本来最も価値のある業務により多くの時間を使うことができるようになります。
在宅業務は、AIの活用によって、これから最も大きく変革していく分野の一つです。 まずは難しく考えず、今日ご紹介した「服薬指導文のやさしい言葉への翻訳」や「メモの要約」といった簡単なことから、あなたの「賢いアシスタント」であるAI Studio（Gemini）に、気軽に話しかけてみてください。きっと、あなたの業務を助ける素晴らしい答えを返してくれるはずです。
本記事は生成AIを活用して作成しています。内容については十分に精査しておりますが、誤りが含まれる可能性があります。お気づきの点がございましたら、コメントにてご指摘いただけますと幸いです。
Amazonでこの関連書籍「できるGoogle NotebookLM 可能性は無限大！自分専用AIノート活用法 (できるシリーズ)」を見る