医療DXが進む2025年。マイナ保険証やオンライン診療など、デジタル技術が医療現場を大きく変えている。
「最近、病院の受付でマイナンバーカードを使いませんか？と聞かれるようになったな…」、「スマホで診察が受けられるって聞いたけど、実際どうなんだろう？」
こんな風に感じたことはありませんか？実はこれらすべて、「医療DX（ディーエックス）」という大きな取り組みの一部なのです。なんだか難しそうな言葉ですが、心配はいりません。これは、私たちの健康と未来の医療を、もっと安全で、もっと便利にするための大切な改革です。この記事では、「医療DX」の専門家が、中学生にもわかるように、この取り組みの「今」と「これから」を、やさしく解説していきます。
「DX」とは、「デジタルトランスフォーメーション」の略で、直訳すると「デジタルによる変革」を意味します。つまり「医療DX」とは、デジタル技術を使って、病院での手続き、診察、お薬の受け取りといった、医療にまつわる様々なことを、よりスムーズで質の高いものに変えていこう、という取り組みのことです。
なぜ今、医療DXが必要なのでしょうか？日本は、世界でもトップクラスの長寿国ですが、その一方で少子高齢化が進み、医療費の増大や、お医者さん・看護師さんの人手不足といった課題に直面しています。このままでは、今まで通りの質の高い医療を誰もが受け続けることが難しくなるかもしれません。そこで、デジタル技術の力を借りて、医療現場の負担を減らし、患者さん一人ひとりにとってもっと良い医療を提供できる仕組みを作ろうとしているのです。
医療DXと聞いても、まだピンとこないかもしれませんね。ここでは、私たちの生活に直接関係する4つの代表的な取り組みをご紹介します。これらが実現すると、あなたの病院体験はきっと大きく変わります。
2024年12月から、これまでの紙やカードの健康保険証の新規発行が停止され、「マイナ保険証（マイナンバーカードの健康保険証利用）」への移行が進んでいます。受付でカードリーダーにかざすだけで、面倒な手続きが楽になるだけでなく、実はもっと大きなメリットがあります。本人の同意があれば、お医者さんや薬剤師さんが、あなたが過去にどんなお薬を飲んできたか、どんな健康診断を受けてきたかといった情報を、正確に確認できるようになるのです。
これにより、薬の飲み合わせが悪い「併用禁忌（へいようきんき）」や、同じ薬が重複して処方されるのを防ぐことができます。また、旅行先や引っ越し先で急に病院にかかったときでも、あなたの体質やアレルギー、過去の病歴がすぐに伝わるため、より安全で的確な治療を受けられるようになります。まさに「あなたの健康情報のお守り」になってくれるのです。
「オンライン診療」は、スマートフォンやパソコンのビデオ通話機能を使って、自宅や職場にいながらお医者さんの診察を受けられるサービスです。新型コロナウイルスの流行をきっかけに、急速に広まりました。病院での長い待ち時間や、待合室での感染リスクから解放されるのは、大きな魅力と言えるでしょう。
特に、高血圧などの慢性的な病気で定期的に同じ薬をもらっている方や、子育てや介護で家を空けにくい方、近くに専門医がいない地域にお住まいの方にとっては、非常に便利な選択肢です。ただし、もちろんデメリットもあります。画面越しでは、お医者さんが直接体に触れて診察する「触診（しょくしん）」ができませんし、細かい症状が伝わりにくいこともあります。そのため、初診や症状が重い場合は対面での診察が必要になるなど、オンライン診療と対面診療をうまく使い分けることが大切です。
これまでは、病院で紙の処方箋をもらい、それを持って薬局へ行くのが当たり前でした。しかし、「電子処方箋」が普及すると、この流れが大きく変わります。電子処方箋は、病院から薬局へ、処方箋の情報がデジタルデータで直接送られる仕組みです。
これによって、マイナ保険証と同じように、複数の医療機関や薬局であなたのお薬情報が共有されるようになります。その結果、飲み合わせの悪い薬や重複した薬が処方されるのを防ぎ、医療の安全性が格段に向上します。また、紙の処方箋を紛失する心配もなくなりますし、事前にデータを送っておけば、薬局での待ち時間を短縮することも可能になります。まだ導入している病院は限られていますが、薬局ではかなり普及が進んでおり、これからどんどん便利になっていくことが期待されています。
「電子カルテ」は、これまで紙で管理されていた患者さんの診療記録（カルテ）を、電子データとして管理するシステムです。多くの大きな病院ではすでに導入されていますが、地域のクリニック（診療所）などでは、まだ紙のカルテを使っているところも少なくありません。政府は2030年までに、ほぼ全ての医療機関で電子カルテを導入することを目指しています。
さらに重要なのが、それぞれの病院がバラバラの形式で管理している電子カルテの情報を、国が定めた統一ルール（標準規格）に沿って連携できるようにする取り組みです。これが実現すれば、例えば、A病院の検査データをB病院でも見ることができるようになり、患者さんが何度も同じ検査を受ける負担がなくなります。救急車で運ばれた意識不明の患者さんでも、過去のカルテ情報にアクセスできれば、持病やアレルギーを考慮した迅速な救命措置が可能になるのです。
これだけ便利な医療DXですが、なぜもっとスピーディーに進まないのでしょうか。そこには、乗り越えなければならない、いくつかの大きな「壁」が存在します。
医療DXを進めるためには、新しいシステムを導入するための高額な初期費用や、月々の維持費がかかります。特に、地域の小さなクリニックにとっては、この経済的な負担は決して小さくありません。また、システムを使いこなせるITに詳しい職員が不足していることも、導入をためらう大きな原因となっています。日々の診療で手一杯の中で、新しいことを学ぶ時間や余裕を確保するのが難しい、という医療現場の切実な声もあります。国も補助金などで支援していますが、まだまだ十分とは言えないのが現状です。
医療情報は、個人のプライバシーの中でも特に慎重に扱われるべき情報です。医療DXによってデータが便利に連携されるようになると、サイバー攻撃による情報漏洩のリスクも高まります。そのため、国は非常に厳しいセキュリティ基準を設けて、医療機関に対策を求めています。この基準をクリアするための設備投資や人材育成も、医療機関にとっては大きな負担となります。「便利さ」と「安全性」のバランスをいかにして保つか、これは医療DXにおける永遠の課題と言えるでしょう。
どれだけ優れたシステムができても、それを使う人がいなければ意味がありません。患者さんの中には、「マイナンバーカードに健康情報を紐づけるのは不安」「オンライン診療より、やはり直接先生に会って診てもらいたい」と感じる方も少なくありません。また、医療従事者側にも、長年慣れ親しんだ紙のカルテや今までのやり方を変えることへの抵抗感があるのも事実です。新しい技術への不安を解消し、そのメリットを丁寧に伝えていく、地道なコミュニケーションが、普及のための重要なカギを握っています。
様々な課題はありますが、日本の医療DXは、国を挙げて着実に前進しています。政府が掲げる「医療DX令和ビジョン2030」では、私たちがより質の高い医療を受けられる未来の姿が描かれています。
将来的には、全国の医療情報が安全に連携するプラットフォーム（土台）が作られ、個人の健康診断の結果や日々の生活習慣のデータ、ゲノム（遺伝子）情報などを活用して、病気の予防や一人ひとりに最適な治療法を提案する「個別化医療（プレシジョン・メディシン）」の実現が期待されています。AI（人工知能）がレントゲン画像を解析して病気の兆候を早期に発見したり、ウェアラブル端末（身に着ける電子機器）が体調の異変を察知して受診を促したりと、まるでSF映画のような世界が、もうすぐそこまで来ています。
医療DXは、単なる「デジタル化」ではありません。それは、日本の優れた医療を守り、進化させ、次の世代へと引き継いでいくための、非常に重要な国家プロジェクトです。私たち患者一人ひとりが、その変化に関心を持ち、マイナ保険証やオンライン診療といった新しいサービスを正しく理解し、活用していくことが、この改革を成功させるための大きな力になります。
難しいと感じる部分もあるかもしれませんが、これは間違いなく、私たちの暮らしをより良く、より健康にするための変化です。これからも、医療DXの動向に注目し、自分や家族の健康を守るための新しい選択肢として、賢く付き合っていきましょう。
本記事は、2025年10月1日時点の信頼できる情報に基づき、医療DXに関する一般的な情報提供を目的として作成されたものです。記事の内容の正確性については万全を期しておりますが、その完全性や最新性を保証するものではありません。また、本記事は医学的な助言や診断に代わるものではありません。健康上の問題については、必ずご自身の判断で医師や専門の医療機関にご相談ください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害や不利益についても、作成者は一切の責任を負わないものとします。
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